東京地方裁判所 昭和59年(ヨ)3424号 決定 1984年5月31日
債権者
フジマル工業株式会社
右代表者
岸義人
右代理人
辻誠
関智文
債務者
破産者
栄商事株式会社破産管財人
梶谷玄
第三債務者
ヤマミ金物株式会社
右代表者
関口隆之
主文
本件申請を却下する。
理由
一本件申請の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。
二疎明資料によれば、債権者が申請外栄商事株式会社(以下「申請外会社」という。)に対し、昭和五九年三月七日及び同月一六日に別紙担保目録一覧表に記載のとおりの商品を売り渡し、これを第三債務者に直送することにより引渡しをしたこと、申請外会社はそのころ第三債務者に対し右商品を転売したこと、従つて、債権者は申請外会社に対する右商品売買先取特権を取得し、申請外会社の第三債務者に対する右商品売掛代金債権につき物上代位をしうる地位にあること、申請外会社は同年四月二日に至り破産宣告を受け、債務者がその破産管財人となつたことが一応認められる。
三そして、債権者は、債務者が第三債務者に対して有する売掛代金債権について、債権者の有する右先取特権による物上代位権を行使して債権差押及び転付命令の申立てをするにあたり、債務者によつて右売掛代金債権の回収等がされてしまうと右先取特権の実行ができなくなるのでこれを保全するため本件仮処分申請に及んだものであり、その意とするところは、債務者において、債権者からの先取特権の実行を受忍し、その目的物ないし代償物たる売掛代金債権についての保持義務を有するものであると主張するものと解される。
よつて、案ずるに、動産売買先取特権は約定によることなく動産売買代金債権につき当該目的物の上に生ずる法定の担保物権であつて、先取特権者は目的物の交換価値を把握し、民事執行法一九三条により目的物あるいはその代償物が買主の支配下に特定が可能なままで存するときに自らこれを差押えて優先権を行使しうるものではあるが、他方、当該目的物を占有しこれについての支配をしうる権利はもとよりなく、また、何ら公示の方法もないため他の一般債権者や第三取得者を害する虞れがあることなどからして、当該目的物が第三取得者に譲渡引渡されたときはもはやこれについてその効力を及ぼし得ず消滅するに至る(民法三三三条)という権利であつて、先取特権者において当該目的物に対する支配を確立するため買主に対しこれが処分を阻止することを請求しうる権利は何ら存せず、従つて、買主においてもこのような請求を受忍し、目的物を保持すべき義務はなしとしうべきである。そしてこの理は当該目的物が売却され、その売掛代金債権の上に物上代位をなしうるに至つたとしても、また、買主が破産宣告を受けて破産管財人がその権利義務を承継することになつたとしても全く同様である。
そうすると、債務者にこのような義務があることを理由とする本件仮処分申請は理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(星野隆宏)
担保権目録
1.担保権
下記一覧表記載の売買契約に基づく動産売買の先取特権(物上代位)
2.被担保債権及び請求債権
金968,180円
債権者が下記一覧表記載の売買契約に基づき債務者に売却した下記一覧表記載の商品の代金債権
記
売買契約日
商品名
単価
個数
代金額
1
昭和59年3月7日
フジマル工業(株)製ネオカスタムンライパン 24cm
1,716円
120個
205,920円
2
同
同 同 22cm
1,508
40
60,320
3
同
同 ネオカスタムいため鍋 28cm
2,496
20
49,920
4
同
同 テフロン加工卵焼器 中
936
50
46,800
5
同 59年3月16日
同 テフロン加工MAフライパン24cm(5個入)
1,310
220
288,200
6
同
同 同 26cm(5個入)
1,441
220
317,020
合計
670
968,180
債権目録
金968,180円也
ただし、債務者が下記一覧表の売買契約日記載の日附ころに債権者から第三債務者に直送させて第三債務者に売り渡した下記一覧表記載の商品の売買代金債権のうち頭書金額に満ちるまでの金員
記
売買契約日
商品名
個数
1
昭和59年3月7日
フジマル工業(株)製ネオカスタムフライパン 24cm
120個
2
同
同 同 22cm
40
3
同
同 ネオカスタムいため鍋 28cm
20
4
同
同 テフロン加工卵焼器 中
50
5
同 59年3月16日
同 テフロン加工MAフライパン24cm(5個入)
220
6
同
同 同 26cm(5個入)
220
合計
670
申請の趣旨
債権者の債務者に対する別紙担保権目録記載の担保権の実行を保全するため、債務者は別紙債権目録記載の債権を取立て、譲渡その他一切の処分をしてはならない。
第三債務者は右債務を債務者に支払つてはならない。
との裁判を求める。
申請の理由
一、債権者は、申請外栄商事株式会社に対し、別紙担保権目録のとおり自社製の商品を右申請外会社の指示により第三債務者に直送して申請外会社に売渡し、本件第三債務者に対する右直送分については金九六八、一八〇円の売掛金債権を有する。
二、一方、申請外会社は債権者から買い受けた商品を債権者から第三債務者に直送させて第三債務者に転売したので、右商品につき、申請外会社は第三債務者に対し売掛金債権を有する。
三、ところで、申請外会社は本年三月三一日東京地方裁判所に自己破産の申立をし、四月二日破産宣告を受け、同日、債務者が破産管財人に選任されて就任した。
四、そこで、債権者は債務者が第三債務者に対し有する売掛金債権のうち債権者が債務者に対して有する売掛金債権金額につき別除権である先取特権(物上代位)を有するので、債権差押及び転付命令申請をするために準備中であるが、申請前に債務者に協力を求めたところ、債務者はこれを考慮の対象に入れることはできないと拒絶し、右売掛金債権については直ちに回収するとの意向を示した。もし右売掛金債権が回収されてしまうと、債権者の有する先取特権は実行できなくなるので本申請に及んだ次第である。